従業員のスキル向上・定着促進を促す兼業・副業を進めるには
- takuya zukeran
- 2024年4月1日
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厚生労働省が平成29年に公開した「働き方改革実行計画」では、副業・兼業を企業が認めることは新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備として有効としている一方、副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ないため、副業・兼業の普及促進を進める方向性を示し、副業・兼業に関するガイドラインの策定や、厚生労働省が公開しているモデル就業規則を副業・兼業を認める方向での改定を行いました。
一方、事業主の方から、そのような社会全体の潮流は捉えているが、副業・兼業制度を導入することが自社にとってどのようなメリットがあるのか分からないという声を聞くことも少なくありません。そこで、ここでは副業・兼業制度を導入することについてのメリット・デメリットを紹介します。
副業・兼業のメリットとデメリットは企業から見た観点と従業員から見た観点が考えられます。それぞれ見てきます。
Ⅰ.企業観点から見たのメリット
企業のメリットは大きく3つ、「人材育成ができる」、「優秀な人材の獲得・流出防止」、「新たな知識・顧客・経営資源の獲得」があります。
①人材育成ができる
企業は、副業・兼業制度を導入することにより、従業員が社内では得られない知識・スキルを獲得し、それを社内で活かすことで労働生産性が高まります。また、従業員が、自ら起業・創業し会社経営や個人事業者主になることで、経営者視点を醸成するとともに、リーダーシップ・マネジメントスキルを鍛錬することができることや従業員が社外でも通用する知識・スキルの習得・研鑽に努め るようになり、自立した社員を増やすことが出来るなどの人材育成効果が期待できます。
②優秀な人材の獲得・流出防止
副業・兼業を自社に所属する従業員に対して、他社で働くことを容認することで得られるメリットとして、本業の会社を辞めることを求めなくて済むため、結果として個人事業(自営)や自身で会社を起業・経営するような優秀な人材を獲得することが期待できます。また、優秀な人材が退職することなく会社に留まり、本業で活躍し続ける可能性が高まります。さらに、副業・兼業で働く従業員を自社に受け入れことで、スキルが高く高給の人材を、兼業・副業として、雇用シェアすることで比較的低コストで獲得することができることや、フルタイムでは働くことができないが兼業・副業という形態であれば働くことができる人材をスポット的に雇用することで、人材確保の課題解決にも貢献することが期待できます。
③新たな知識・顧客・経営資源の獲得
従業員が副業・兼業先から得た、新しい知識・情報、人脈などを自社に持ち帰ることで事業機会の拡大、イノベーション創出につながることが期待できます。また、副業・兼業者を受け入れることで、新たな顧客や事業パートナー(企業、個人)を開拓することにつながり、 市場の拡大や社外経営資源の活用が期待できます。
Ⅱ.企業観点から見るデメリット
企業観点のデメリットは3つ、「本業への支障」、「従業員の健康配慮」、「情報漏洩等、様々なリスク管理」があります。
①本業への支障
副業・兼業を容認することで、従業員が仕事に携わる時間が多くなります。それにより従業員の心身への影響や生産性の低下が発生する可能性が考えられます。
②従業員の健康配慮
従業員が副業・兼業を行う場合、副業・兼業先での業務は自社の業務時間外であるため、体調管理も含めて従業員の裁量によるところが大きくなります。しかし、長時間労働等により従業員の体調に万が一のことがあった場合には責任追及される法的・風評リスクがあります。
③情報漏洩等、様々なリスク管理
業務上の秘密漏洩や企業の信用毀損、本業との競業による損害発生等のリスクや、就業規則の改正、雇用される場合の兼業・副業先との労働時間通算、社会保険料や割増賃金等の負担調整などの事務コストが発生します。
Ⅲ.従業員観点のメリット
次に従業員観点のメリットを示していきます。メリットは大きく3つ「所得増加」、「自身の能力・キャリア選 択肢の拡大」、「自己実現の追求・幸福感の向上」があります。
①所得増加
従業員が本業以外で所得を得ることができるので、従業員が金銭面において精神的な余裕をもちながら働くことができます。
②自身の能力・キャリア選 択肢の拡大
社内では得られない知識・スキル・人脈を獲得でき、従業員のキャリアを開発することができる。社外でも通用する知識・スキルを研鑽し労働・人材市場における価値向上の意欲を醸成させ、自己啓発を促すことができます。
③自己実現の追求・幸福感の向上
本業で安定した所得があることを活かして、自分のやりたいこと (社会貢献活動、文化・芸術的活動等など)に挑戦・継続することができ、従業員の自社に対する忠誠心(ロイヤリティ)が高まることが期待できます。
Ⅳ.従業員観点のデメリット
従業員観点のデメリットは2つです。「就業時間の増加による本業への支障等」、「本業・副業間でのタスク 管理の困難さ」です。
①就業時間の増加による本業への支障等
副業・兼業を行う事で、本業の時間に制約ができるため、短期的には 100%以上の成果を出しにくくなり、本業における評価が低くなる可能性が考えられます。
②本業・副業間でのタスク 管理の困難さ
本業・副業間でのタスク管理が難しく、業務バランスの維持が困難になる可能性が考えられます。
以上に、副業・兼業制度を導入するためのメリット・デメリットを示しました。
どの様な施策を進めるにしても進めるに際して、一定のデメリットが発生する場合が少なくありません。
会社の状況を勘案し、制度の導入により得られるメリットとデメリットを比較検討し、メリットを享受する方が、より会社の事業発展に寄与するのであれば、制度の導入を進めてもいいかもしれません。
その際には、上記Ⅱ③でも示した様に、就業規則の整備や改定、副業も含めた労働時間管理体制の構築、副業・兼業を行う従業員の健康管理体制制度の構築、労災保険適用の周知・教育など労務管理上必要な業務が発生しますので留意が必要です。
詳細は、厚生労働省が公開する副業・兼業の促進に関するガイドラインにも載っていますので、制度導入に際しては一読することをお勧めします。
<副業・兼業の促進に関するガイドライン>
※本稿は令和5年3月29日時点の情報に基づき作成しています